ナカムラマコトの世界 / Мир Макото Накамуры

漆工芸家「中村真」の作品と展示情報を主に、かつて暮らした中央アジアの風景と工芸にも触れていきます。

天空の集落

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スカルドゥ7
 素敵な小さな木工房のある集落にたどり着くことができたのは、ほんの偶然が重なった幸運としか言いようがありません。
 訪問した「ウアリ村」という集落は、インダス川沿いにうねうね走る街道を行く車窓からは絶対に目につきようもない、川を見下ろす天空の小高い丘の上に、ひっそりと待ち構えていたのです。

 偶然の経緯はこういった訳でして。。。

 この日は宿のあるスカルドゥの街を早朝に発ち、インダス川上流に向け移動を続けていました。
 道中、伝統的な民族造形の木工房や職人がいるかどうか、それらの情報を知っているかどうかと、商店があれば訪ね、街道を行く人々がいれば声をかけ、井戸端会議の話の腰を折りながら手探りで情報を集める中、偶然立ち寄ったある一件の茶店で、耳より情報を仕入れる事が出来ました。

カラコルムハイウェイ7
 茶店の青年曰く、「昔ながらの木工房ならウチの村にありますが、見れるかどうかは長老たちに聞いておきますから帰りにここに寄ってください。神が望めばご案内いたしますから。」と言う村人と出会うことができました。
 しかし、この場合の「神が望めば。」とは、いかにも中央アジアらしい言い回し方のひとつで、あまり期待せず、縁があればという程度を意味しています。数値に表せば限りなくゼロに近い確率の事です。

 そして、午後。バラパイン村からの復路にあまり期待せず街道沿いの谷底にあるその茶店に立ち寄れば、朝の青年が笑顔で待っていてくれていました。「どうぞ我が村へ寄ってください。歓迎します。さあさあ行きましょう。」
どうやら神は訪問を望んでくれたようです。

 ジャビルと名乗った彼は「どうぞどうぞ」と言いながら、茶屋の向かいのジギザグの獣道を刻みつけられた岩の壁をすいすい登っていきます。おいていかれないように黙々と登ること15分。ひと息をつこうと顔をあげると我々はいつしか集落に足を踏み入れていました。


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「見てみて、あれがガイジンだよ。」と村人たち、特に女性達が遠巻きに、野次馬状態で我々を眺めていることから察するに、この村にとっては、我々の訪問が大事件だったようです。


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 我々はさらに集落の奥にある扉の向こうに案内されました。



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 扉をくぐるとそこにあるのは簡素な木工轆轤の工房と、眼下に広がるインダス川の眺め。
制作しながら見張りをすることが出来るとのこと。敵の来襲を見張りながらの制作とはどんな気持ちなのか、全く想像つきません。

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 ここで実際に制作を見せていただくことができました。
轆轤の動力は人力。挽き手とこぎ手の二人で力をあわせての作業。ムハンマド・サディクさんが挽き手、アブドゥル・サラームさんがこぎ手の担当。彼らのキャリアは30年になるとおっしゃいました。

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 曲げ鉋も自作。日本の曲げ鉋とは逆に刃がつくのがパキスタン流。
人力での低速回転させた木材に刃物を当てると、本当によく切れます。
これだけ切れればさぞや仕事がはかどるだろうと思いきや、一日で3個のうつわを仕上げるだけとのこと。
集落の人から注文を受けての制作のみだそうで、急ぐ必要もないのです。
ちなみに注文は日用品。乳からラッシーをつくるための筒やチャイを飲む器や皿などだそうです。
作ってもらいたい人は、各自木材を持ち寄って、幾分かの手間賃を払います。値段は、だいたい150〜200ルピーということでした。これは串焼肉の一人前と同じくらいの値段です。

どんなものを作ったのかを見せていただくことを頼むと、村の家からからわざわざ持って来てくれることになりました。

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バター入れ。

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漏斗。

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お盆。



「ここら辺でお茶にしませんか?」と、ほんのり甘みをつけた緑茶を、カフェオレボウルのような木のうつわに注いでいただきました。
眺望の良い工房でいただく一杯のお茶のなんと贅沢なこと、村に入るまでの崖登りの体にすっと染み入ります。

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 お茶をいただきながら、集落のことや生活のことをいろいろ教えていただきました。
ウアリ村には140戸の家があり、住人は400人〜500人程。主に農業で自給自足しているとのこと。そういえば川沿いに美しい麦畑があり、農婦が手入れをしていました。

 村の中心には共同管理の冷蔵庫と製粉小屋があり、それが村の誇りだそうです。
そう話すないなや「冷蔵庫はぜひ見ていただきたい」と、なぜか興奮気味になったジャビルさんは早速村の中心を案内してくれました。

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 冷蔵庫とは、清水が流れる水路の上に石を積み上げた蔵のことでした。冷気が篭る中を覗くと真っ暗な中乳製品の強烈な匂いが鼻を突きます。「バターはさっきお見せした容器に入れてこうやって保存します。」と熱っぽく語るジャビルさん。
生活工芸が、日々の営みの中にあるということを見せてくれました。

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「ここが製粉小屋です。上から水を落とすとこの水車が回って石臼を動かします。これも自分たちで作ったのです。」と語る口調が誇らしい。


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製粉小屋から少し離れた場所で遊んでいた子供に近づくとクモの子を散らすように逃げられてしまったのだが、この子供達がどんな遊びをしていたかといえば。。。

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なんと畑ごっこ。このようにして遊びながら生活の術を学ぶのだろうか。
空に近い集落で見たものは、昔から変わらぬ、大地に根ざした人々の営みのような気がしました。

いつしか山から砂が混じった風が吹く時間となり、そろそろ日暮れ。このあたりは山賊が出るらしいのでいそいそと帰路につくことにしました。

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上流の村

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 「村まで送ってくれたらウチの村にある古い工芸品をたくさん見せてあげるよ。」という村人の案内で、インダス川左岸のハプルの街を出発すること2時間。
「ハプルの街から目と鼻の先の村だから。」という言葉を真に受けてみれば案外と長い小旅行に。
長い吊り橋を渡り、車の下をごりごりこすりながら河原をひたはしると目的地のバラパイン村である。
村の中心に到着するやいなや彼は「ありがとう。」と言い残し、そそくさと家に帰ってしまいました。

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 バラパイン村はインダス川右岸の河原にある集落。荒れた河原を住民が手を加え、ポプラ並木や果樹園や花畑が美しい穏やかなところ。青く澄んだ水を貯めた池には鱒のような魚がすいーっと泳いでいる。
しかしいくら穏やかであっても、荒れた河原であることには変わりようはなく、時折強烈な砂嵐が襲って来る。

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 たまりかねて何度目かの砂嵐から手近な小屋に避難したのだが、丁度都合がいいことにその小屋は村の資料館。
堆積していたのか、今降り積もったのか、ともかく砂だらけの木や石から作られた古い食器類を中心とした生活工芸品を見ることが出来ました。

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 ここの展示品は、どれもが摩耗した丸みを帯びた形をしていて、優しいフォルムを見せているのだが、砂嵐がその摩耗の理由ではないくらいに摩耗をしているのがどうにも気になってしまう。
「この村では食事後、器を洗うのに研磨剤として河原の微粒子の砂で磨いているんですよ。」と管理人は教えてくれる。
 つまり、異常なほどすり減っているその丸みは、人の手によるものだったというわけ。土地の理に適った手入れの仕方は、自然と人との共作として優しいフォルムを生み出してきたのですね。
 工芸作家として、美しいものを目指して制作活動をしている私にとって、人の行為が自然に挑んでいるのではなくて土地と一体化しているということや、うつわは使って育ってゆくことなどをあらためて気づかせてくれるというか、ともかく私は心動かされることになりました。

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ここ、そこにあるものを活かしての工芸と生活を垣間見れたバラパイン村。ちょっといいように利用されたとしても来てみてよかったと思えた訪問でした。





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